発達心理学論文備忘録*論文千本ノック

最近読んだ論文(主に発達心理学、英語)の備忘録を記しています。論文千本ノックチャレンジと題して、論文千本読もう!とこのブログをはじめましたがどうなることやら…。内容には間違いがあるかもしれませんので、論文の内容に関心のある方は原文を読まれることをおすすめします。丁寧に読んだ論文からざっと読んだ論文までいろいろなので、文章のクオリティは保証しません。

Neel & Fuligni (2013). A longitudinal study of school belonging and academic motivation across high school.

Neel & Fuligni (2013). A longitudinal study of school belonging and academic motivation across high school. Child Development, 84, 678-692. doi: 

www.ncbi.nlm.nih.gov

本研究の目的

本研究では以下2つの主要なクエスチョンに回答することを目的とした。

1)平均的には、高校生活にわたる生徒の学校所属感にどのようなことが起こるのか?

2)高校生個人内では、学校所属感はどのように学業成果および学業への価値と関連するだろうか?

3)これらの主要なクエスチョンに加えて、本研究では学校所属感や学校所属感との関連は性別や民族性によって異なるか検討した。

本研究では高校4年間にわたって、生徒の学校所属感、学業成果、学業価値を追跡した。その際、学校所属感と学業に関する変数との個人内関連を検討するためにマルチレベル分析を採用した。

方法

対象者

対象者はロサンゼルスにある3つの公立高校から募集された。9学年からはじまり、次いで10学年、11学年、12学年の生徒が対象となった。各高校は独自の民族的また社会経済的状況の生徒が在籍してた。対象の生徒は合計で572人であり、Time1での平均年齢は14.88歳(SD=0.39歳)であった。うち、210人はラテン系アメリカ人(メキシコ)のバックグラウンドをもっていた。その他の生徒は、アジア系とヨーロッパ系であった。

尺度

学校所属感7項目、学業成績(スクールレコードより)、学校の内在的価値2項目、学校の有益性に関する価値3項目

結果

3校からサンプリングされたので、主要な変数(学校所属感、GPA、価値)についての学校差をANOVAで検討したが、有意差は確認されなかった。

本研究の目的を検討するため、2レベルの階層線形モデルが用いられた。具体的には、Level1はyearレベル、Level2は個人レベルであった。

高校生活にわたる学校所属感

次のモデルによって推定された。

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学校所属感ij = b0j + b1j (yearij) + eij・・・(1)

 *ある個人jのある年iの学校所属感ijは、ある個人jの1年目の学校所属感b0jとその後の平均変化b1j (+誤差)の関数としてモデル化された。

b0j = c00 + c01 (性別j) + c02 (ラテン系j) + c03 (アジア系j) + c04 (SESj) + u0j・・・(2)

 *ある個人jの1年目の学校所属感b0jは、性別、民族、SES、(+誤差)の関数としてモデル化された。

b1j = c10 + c11 (性別j) + c12 (ラテン系j) + c13 (アジア系j) + c14 (SESj) + u1j・・・(3)

 *ある個人jの学校所属感の平均変化b1j は、性別、民族、SES、(+誤差)の関数としてモデル化された。

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1年目(9年生)の時点では、女性は男性よりも学校所属感が高かった。しかし、高校生活を送る中で、女性は学校所属感が低下したのに対し、男性は学校所属感が変化しなかった。女性は9~12学年にかけて学校所属感が6.92%低下した。男子は安定していた。結果として、高校の最終年には女性と男性の学校所属感は同程度の水準であった。民族の違いによる学校所属感の切片(1年目の得点)と傾き(平均変化)に差は見られなかった。切片と傾きの分散は有意であり、つまり1年目とその後の変化の程度には個人差がみられた。

学校所属感と学業成績との関連

以下のモデルによって推定された。

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GPAij = b0j + b1j (yearij) + b2j (学校所属感) + eij・・・(4)

 *ある個人jのある年iのGPAは、GPAの切片b0jと平均変化b1j をコントールした上で、学校所属感とGPAの個人内関連b2jの関数としてモデル化。

b0j、b1j、b2jは、性別、民族、SESの関数としてモデル化された。・・・(5)(6)(7)*数式が冗長なので省略しました。詳細は原典を確認。

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結果として、個人内の学校所属感とGPAの関連は性別や民族によって違いはみられなかった。言い換えれば、ある個人のある年の学校所属感は、その年のGPAと関連がなかった。

学校所属感と学業モチベーション

個人内レベルにおける学業の内在的価値と学校所属感との関連、学業の有益性に関する価値と学校所属感との関連には、正の関連がみられた。言い換えれば、ある年で平均より高い学校所属感を報告した個人は、その年に学業の内在的・有益性についての価値を高く報告する傾向があった。

考察&結論

学校所属感に性差がみられたことについての解釈

女性の学校所属感は低下、男性は安定であったことの背景には、課外活動への機会の違いがあるのではないか。課外活動への参加は、学校所属感を促進することがこれまでの研究で示されている。ただしその機会というのは男性のほうに多く提供されている(Braddock et al., 2005)。このような男女格差が、女性の学校所属感が低下し、男性は安定的だったことを説明するのではないだろうか。

その他の可能性としては、生徒と先生の関係性(の質)についての性差が考えられる。女性のほうが生徒―先生間の関係性に繊細であることから、もし女性が関係性の悪化に繊細に感じ取っていたならば、学校所属感の低下にも関連していただろう。

 

本研究は、学校所属感の変化および学業との個人内関連を検討することによって、学校所属感の研究に大きな貢献をした。今回の調査では、高校生活にわたって、特に男子生徒学校で学校所属感の驚くべき安定性が実証された。また今回の調査では、実際の学業達成度にかかわらず、学校所属感が高いレベルのモチベーションを維持するのに役立つかもしれないことを示唆した。これらの結果は個人内分析によって得られ、学校所属感とモチベーションの真値の軌跡と関係を提供する。

論文を読んだ印象

学校所属感の性差についての考察には限界があるように思えたが、全体的には堅実な手法を用いて高校移行後の所属感を検討したよい研究であると感じた。日本では学校所属感の変化に関する知見がほとんどないのでとても勉強になった。