発達心理学論文備忘録*論文千本ノック

最近読んだ論文(主に発達心理学、英語)の備忘録を記しています。論文千本ノックチャレンジと題して、論文千本読もう!とこのブログをはじめましたがどうなることやら…。内容には間違いがあるかもしれませんので、論文の内容に関心のある方は原文を読まれることをおすすめします。丁寧に読んだ論文からざっと読んだ論文までいろいろなので、文章のクオリティは保証しません。

Roeser et al. (1996). Perceptions of the school psychological environment and early adolescents' psychological and behavioral functioning in school: The mediating role of goals and belonging.

Roeser, R. W., Midgley, C., & Urdan, T. C. (1996). Perceptions of the school psychological environment and early adolescents' psychological and behavioral functioning in school: The mediating role of goals and belonging. Journal of Educational Psychology, 88, 408-422. doi: 10.1037/0022-0663.88.3.408

http://psycnet.apa.org/record/1996-01787-003

本研究の目的

学校心理的環境(School Psychological Environment)

中学校での経験と学校における生徒の心理的・行動的機能の関係を理解するため、我々は我々が「学校心理的環境(school psychological environment)」と呼ぶものに焦点をあてる。これは他の研究で、学校文化(school culture)や学校風土(school climate)としても示されている。我々は、学校心理的環境という用語を、本研究で検討される「個人への環境」という意味を強調するために用いる。この場合、学校環境に対する学生の認識と、それらの認識に対する反応が重要である(Maehr, 1991)。

2つの学校心理的環境である、目標次元(goal dimension)と関係性次元(relationship dimension)を本研究で検討する。第一に、生徒が教室や学校において知覚し、全体的に生徒の自己知覚や効果的な学習方略、努力、継続性に関連する達成目標構造(achievement goal structure)に関するエビデンスは増大している。第二に、中学校環境の対人関係的側面についての研究は、学校における生徒―教員のポジティブな関係性は、青年期前期の学習動機づけと達成と関連することを実証している(Goodenow, 1993; Midgley et al., 1989)。

目標次元:知覚された学習目標構造

これまで多くの研究は、教室レベルの学習目標構造に焦点を当ててきたけれども、Maehr&Midgley(1991)は目標構造が、生徒が経験する学校レベルの校則や教育実践を通じて学校レベルでも知覚されることを議論している。高い達成レベルの生徒を育てるために、同程度の能力をもつ生徒のグループをつくったり、学業成績に基づく特別な特権を与えたりすることは、特定の学校における成功を構成する重要なメッセージを提供する可能性がある(e.g., Maehr & Midgley, 1993)。学校の中で生徒に課される主な要求の1つは、学業の成功を追求し、それによって個人的な能力と価値を感じることです。なので、生徒が学校で知覚する明示的かつ暗示的な成功の意味は、自身の達成信念や感情、行動と関連している。例えば、実験的研究や介入プロジェクト研究では中学校における目標構造の変化は、生徒の学習に対するアプローチの変化と関連していた。我々は学校レベルでもそのようなプロセスが働いていると考えており、また学校における目標構造の知覚は生徒自身の達成目標にとっても重要な環境になると仮定する。

2種類の学校レベル目標構造は、学校で成功することに関して生徒がどのように意味を作り出すかを理解するために有益であると証明されている。校則や教育実践を通じて、学校は成長や熟達、知的発達(課題熟達目標)、あるいは社会的比較、相対化する力、他の生徒との競争(相対的な能力目標)を強調することができる。今日相対的に研究がほとんど行われていないけれども、学校における生徒の目標知覚は生徒の個人的な達成目標、学業効力感、効果的な学習方略の使用と関連するというエビデンスがある。

関係性次元:知覚された生徒―先生関係

2つ目の視点は、学校がいかに学習や精神的健康にとってサポーティブで保護的な共同体を提供することに関して重要な役割を担えるかについてである。実証的研究は、生徒―教師関係のポジティブな知覚と学校所属感の両者が、ポジティブな学習動機づけと達成に関連することを示している(e.g., Goodenow, 1993)。学校環境の知覚と自己効力感的信念、学校に関連する感情、自己意識の関係を学校所属感が媒介する可能性はまだ十分に検討されていない(Goodenow, 1993)。

 

#メモ:達成目標については達成動機づけに関する達成目標理論を参照 

 

目的

第一に、本研究は知覚された学校環境と生徒の信念、感情、学業達成に関する2つの研究を1つの研究としてまとめる。本研究は知覚された目標構造と生徒―教師関係の両方の研究を取り入れている。

第二に、個人的な学業達成目標が学校目標構造の知覚と心理的アウトカムの関係を媒介するかどうか、また、個人の学校所属感が生徒―教師関係と心理的アウトカムの関係を媒介するかどうかを実証する。

第三に、これまでのアウトカム変数に対して、本研究は学業自己効力感と学業成績というアウトカムを加える。

第四に、8学年(スクールイヤー)におけるこれらの関係性を検討する際に、生徒のこれまでの動機づけ的信念と学業的ヒストリーを考慮する。

方法

対象者と手続き

1つ学区における中学校2校から294名の生徒(6、7、8学年)が参加した。男女比はほぼ同じであった。生徒の87%が白人系人種で、13%がアメリカ系アフリカ人種であった。データは、6学年と8学年のときに集められた。調査は1つの授業内で実施(およそ40分間)され、その際調査アシスタントが大きな声で質問紙を読んだ。

尺度

学校環境の知覚、媒介プロセス、心理的・行動的アウトカムの4つの構造を含む尺度が用いられた(詳細はFig1を参照)。

結果

生徒のこれまでの達成目標信念の役割

6学年での個人的な課題目標は、その後8学年における学校課題目標構造(#学校レベルでの変数ということ?)(β=.27)と生徒―教師関係(β=.27)に対して中程度のポジティブな影響を及ぼしていた。また学校能力目標構造(β=-.22)に対しては負の影響を示した。6学年での個人的な学業目標は8学年での学校環境知覚の分散を大して説明しなかった(調整R2 = .05~.07)。以後、6学年の成績目標信念は統制変数とした。

学校環境知覚から心理的アウトカムへの影響

*この研究では媒介関係(A→B→C)を検討するために、A→C、A→B、B→Cという回帰分析を繰り返したらしい…?

学校課題目標構造は、学業自己効力感に正の効果を示した(β=.28)。学校能力目標構造は、学業自己意識に正の効果を示した(β=.22)。知覚された生徒―教師関係はポジティブな学校感情に正の効果を示した(β=.23)。

学校環境知覚から目標、学校所属感への影響

学校能力目標構造は、個人の相対的能力目標に対して正の効果を示した(β=.40)。学校課題目標構造と生徒―教師関係は、個人の課題目標(β=.34)と学校所属感(β=.22)に正の効果を示した。学校能力目標構造は、学校所属感に対して正の効果を示した(β=.17)。

目標、学校所属感から心理的アウトカムへの影響

学業自己効力感にとって、生徒の知覚された課題目標(β=.17)と学校所属感(β=.17)は正の効果を示した。これらの媒介変数を投入すると、学校課題目標構造の知覚と学業自己効力感の関係は非有意になった。よってBarron & Kenny(1986)の媒介効果の基準を満たした。

自己意識にとって、個人的な相対的能力目標(β=.39)と学校所属感(β=.23)は正の影響を示していた。

生徒の相対的能力目標(β=.25)と学校所属感(β=.45)は、ポジティブな学校感情にとっても正の影響を示した。 

考察&結論

本研究の結果から、学校環境をサポーティブなものとして知覚していることは、より適応的な認知や感情、行動のパターンと関連することが示唆された(e.g., Eccles et al., 1993)。

論文を読んだ感想

学校環境の知覚に言及した数少ない論文の一つ。分析方法についての記述が不明瞭な部分がある点や、サンプルサイズが小さい点など、やや限界点が多い論文であると思った。とはいえ、私の今後の調査計画にむけてのカギになる論文で会った。学校環境の知覚に関する研究は、まだまだ未開拓な領域なのかもしれない。