発達心理学論文備忘録*論文千本ノック

最近読んだ論文(主に発達心理学、英語)の備忘録を記しています。論文千本ノックチャレンジと題して、論文千本読もう!とこのブログをはじめましたがどうなることやら…。内容には間違いがあるかもしれませんので、論文の内容に関心のある方は原文を読まれることをおすすめします。丁寧に読んだ論文からざっと読んだ論文までいろいろなので、文章のクオリティは保証しません。

Witherspoon & Ennett (2011). Stability and change in rural youths’ educational outcomes through the middle and high school years.

Witherspoon, D., & Ennett, S. (2011). Stability and change in rural youths’ educational outcomes through the middle and high school years. Journal of Youth and Adolescence, 40, 1077-1090. doi: 10.1007/s10964-010-9614-6

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本研究の目的

これまでの学校経験の研究は都市部の青年に大きな関心をもってきたけれども、民族的に多様性のある農村部の青年の学校経験を探索した文献は不足している(Estell et al. 2007; Farmer et al. 2004; Wettersten et al. 2005)。本研究は、非農村部の青年に基づく発達モデルが、農村部の青年に適用できるかを検討した。

第1の目的は、農村部の青年の成績と感情的および行動的な学校指標の変化を、6~12学年までの学業と学校所属感、教育の価値、問題行動、課外活動参加の変化を検討することによって記述することである。

第2の目的は、これらの教育軌跡と個人特性の関連を探索することである。

本研究では、学校移行が農村部の青年にとってネガティブな結果を及ぼすかどうかに焦点を当てた。

方法

対象者

本研究のデータは、ノースカロライナ州農村部にの2学区における7時点のContext of Asolescent Substance Use Study (Ennett et al., 2006)から抽出された。この農村部におけるもっとも大きな市の人口は8700~16000名である。本研究は9つの学校に在籍する生徒のデータが用いられた。Wave1では、2826人の生徒が質問紙に回答し、Wave2では78%、Wave3では77%、Wave4では75%、Wave5~6では75%、Wave7では73%であった。分析対象のサンプルは、白人と黒人あるいはアフリカ系アメリカ人に限定された。

尺度

学業成績、学校所属感、教育の価値(高校を卒業することの重要性、大学に行くことの重要性の2項目)、問題行動、課外活動への参加

分析方法

ネストされたデータ構造のモデルである階層線形モデル(Bryk & Raudenbush, 1992)を用いた(生徒個人に時間がネスト)。Two levelモデルを採用。レベル1は各時点レベル、レベル2は生徒レベル。各学校→生徒というネスト関係(Level3)は学校数が2校しかないため分析には含めなかった。SASのPROC MIXEDを用いて推定。

結果

条件なしモデル

学業成績と問題行動、教育の価値は、一次線形モデルのほうが当てはまりが良く、課外活動への参加と学校所属感は2次曲線モデルのほうが当てはまりがよかった。

条件つきモデル

学業成績に対する学年の負の(線形)効果が有意であった(つまり、学年が高くなると学業成績が低くなる:他全ての共変量を統制)。平均的に、男子生徒、両親が大学を卒業していない生徒、アフリカ系アメリカ人の生徒、留年した生徒は、成績が低かった。初期値に関しても、留年した生徒は学業成績が低かった。

問題行動に対する学年の正の(線形)効果が確認された(つまり、学年が高くなると問題行動の得点が高くなる:全多変数を統制)。アフリカ系アメリカ人とその留年した生徒は、初期値における問題行動が白人生徒と白人で留年しなかった生徒よりも高かった。アフリカ系アメリカ人と比べて、白人生徒のほうが問題行動の傾きは大きかった。

課外活動参加に対する学年の正の(曲線)効果が確認された(中学校にかけて課外活動参加が減り、高校にかけて増える)。平均的に、男子また両親が大学を卒業していない男子は課外活動参加が少なかった。アフリカ系アメリカ人のほうが、白人系生徒よりも課外活動参加が少なかった。

教育の価値は、学年にわたって安定を示した。

考察&結論

中学校から高校への標準的な学校移行は中学校移行と比較してあまり研究されていない(Barber & Olsen, 2004; Benner & Graham, 2007)。しかし、ライフコース(Elder, 1998)と発達段階-環境適合理論(1993)は、高校移行が社会的ネットワークや学業課題、スクールエンゲージメントの困難に特徴づけられるように、困難な発達時期であることを示唆している。同時に、高校移行は、課外活動や気の合う友人関係などの新しい機会などについてのポジティブな変化ももたらす。また9学年から12学年は、高校移行というターニングポイント後の平静と反発をもたらす。

本研究は農村部の生徒の教育的アウトカムの軌跡を記述した初めての研究である。本知見は、高校移行がいくつかの悪影響を青年の生活に引き起こすことを示唆したが、その変化はポジティブとネガティブなものであった。これらの結果は、農村部の青年にとってライフコース理論と発達段階―環境適合の重要な側面を示唆する。またいくつかの教育的なトラジェクトリは、都市部の青年を対象した知見と類似していた。農村部と都市部の青年は郊外地域の青年が経験しない課題に直面しているかもしれない。農村部の生徒と都市部あるいは郊外の生徒との教育経験を比較した研究が求められる。

論文を読んだ印象

農村部の学校移行に着目した研究は、この論文がイントロで説明したように多くないと思う。とくに日本では農村部に着目して学校移行を実証的に検討した知見はないのではないだろうか。日本でも人口が少ない地域は、小学生から中学生が一つの学校で学校生活を送っているケースがあるだろうし、そうすると都市部での学校移行とは発達に及ぼすであろう影響は異なってくるようにも想像できる。学校移行と発達軌跡の関係にはまだまだ未開拓な領域が多い。

方法論に関しては、縦断データでも階層線形モデルを用いる調査系発達心理学の論文は多いなあという印象。同じマルチレベルモデルの潜在曲線モデルとHLMがこの研究領域の主流になっている印象がある。推定値的にはLCMとHLMはあまり変わらないらしいけど、どちらを用いたらよいかは、個人的にもう少し勉強が必要。調査時点が対象者ごとに違っても推定できる点では、HLMのほうが柔軟に分析できるというメリットはあるだろうし、モデル全体の適合度を参照できる点ではLCMに優位性があるといえるのかな。