発達心理学論文備忘録*論文千本ノック

最近読んだ論文(主に発達心理学、英語)の備忘録を記しています。論文千本ノックチャレンジと題して、論文千本読もう!とこのブログをはじめましたがどうなることやら…。内容には間違いがあるかもしれませんので、論文の内容に関心のある方は原文を読まれることをおすすめします。丁寧に読んだ論文からざっと読んだ論文までいろいろなので、文章のクオリティは保証しません。

Ng-Knight et al. (2016). A longitudinal study of self-control at the transition to secondary school: considering the role of pubertal status and parenting.

Ng-Knight, T., Shelton, K. H., Riglin, L., McManus, I. C., Frederickson, N., & Rice, F. (2016). A longitudinal study of self-control at the transition to secondary school: considering the role of pubertal status and parenting. Journal of Adolescence, 50, 44-55. doi: 10.1016/j.adolescence.2016.04.006.

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

※とくに思春期のステータスが学校移行期の発達においてどのような役割を果たすのか興味があるので、そこを抜粋して要約する。

 

アブストより]

セカンダリースクールへの移行を通じて、セルフコントロールは低下する。それは特に、第二次性徴が早い生徒において経験される。

[イントロより]

青年期はセルフコントロールの練習にとって重要な時期である。

一つの重要な要因は思春期である。理論的なモデルは、思春期や青年期を自己制御の低下とリスクテイクの増加が生じる脆弱な時期であると特徴づけている。それは非常に繊細な報酬系システムが働くことによる未熟な認知コントロールシステムのためである(Ernst, Pine, & Hardin, 2006; Steinberg, 2005; Van Leijenhorst et al., 2010)。とくに、思春期の発現と関連した性腺ホルモンの上昇によって始まる大脳辺縁系の変化は、青年期における報酬希求の増加に重要な役割があると考えられている(Crone, 2009; Nelson, Leibenluft, McClure,&Pine, 2005; Steinberg et al., 2008)。リスク希求や自己制御の研究は、子どもの思春期発達が自己制御の能力に影響を及ぼしているかもしれないことを示している。しかし、今日、思春期のステータスと特定のセルフコントロール尺度との実証的関連を検討したデータはほとんどない(van Duijvenvoorde et al., 2014)。まとめれば、先行研究は青年期初期におけるセルフコントロールの発達とそれに影響する思春期の効果を理解することの重要性を強調している。

青年期初期にはプライマリスクールからセカンダリスクールへの移行といった重要なイベントが起きる。セルフコントロールは、新しい学校環境における適応をサポートする重要な強みになる傾向がある(Bowes et al., 2013; Eccles et al.,1993)。

思春期に関連した初期の外見的変化は、多くの先進国の男子女子ともに平均して11歳のときに現れる(Parent et al., 2003; Patton & Viner, 2007)。思春期の出現は今日のセルフコントロールと養育の一貫しない関連を説明するだろう。だから思春期の媒介的役割を検討することが重要である。

本研究では、複数の養育次元とセルフコントロールの縦断的変化の関連を検討する。また、思春期ステータスの個人差(ベースラインにおける思春期発達の個人差)と思春期のテンポ(思春期発達のスピード)が、セルフコントロールの変化と関連するかどうかを検討する(Ellis, Shirtcliff, Boyce, Deardorff, & Essex, 2011)。さらに、思春期のステータスが、セルフコントロールと養育との関連を媒介するかどうかを検討する。この研究は、思春期が平均して生じるプライマリスクールとセカンダリスクールの移行期間において実施された。3時点の縦断的なデータを用いてセルフコントロールの潜在変化を分析した。

[方法]

イングランド南東の10のセカンダリースクールから参加者が募集された。データは3時点、6か月間隔で収集した。wave1(セカンダリスクールがはじまる直前)では750人の子どもから質問紙への回答を得た。wave2では712人、wave3では653人であった。1時点目での生徒の平均年齢は11歳3ケ月(SD=0.29歳)であった。

 

[測定変数]

セルフコントロール、養育、思春期ステータス、機能的アウトカム(強みと困難尺度、算数・英語・科学の成績、セカンダリスクール適応評価尺度)、統制変数として問題行動、性別、保護者の教育歴。

思春期ステータス

9項目のPuberty Development Scale(PDS; Petersen, Crockett, Richards, & Boxer,1988)を使用。3時点すべてで測定。項目は自己報告式。5つの領域について、成長していないか、少し成長したか、たくさん成長したかを尋ねる。すべての生徒が、体の毛、皮膚、成長の速度について尋ねられた。加えて、男子は声変わりと顔の毛について尋ねられた。女子は胸の発達と初潮について尋ねられた(1 = no development; 2 = a little; 3 = a lot; 4 = complete or like that of an adult)。合計得点が用いられた。得点範囲は、5~20。信頼性係数αは、男子で.65、女子で.60。

[統計分析]

セルフコントロールと思春期ステータスともに潜在成長モデルが用いられた。
思春期ステータスについては、切片はベースラインの思春期発達の個人差を表す。傾きは3時点にわたっての思春期発達のテンポ(スピード)を表す。引用としてEllis et al. (2011)

 

[結果]

思春期ステータスの平均値(基本統計量)

1時点目:7.58(SD = 2.16):移行直前
2時点目:8.41(SD = 2.31):移行後(+6months)
3時点目:9.16(SD = 2.49):移行後(+6months)

思春期ステータスとテンポはセルフコントロールの変化と関連するか。

潜在成長モデルによる思春期ステータスの初期値は7.60で分散(variance = 3.39, p < .001)も有意。よって、1時点目における思春期ステータスの個人差が示された。

思春期得点は、平均して0.77増加した(p < .001)。傾きの分散(variance = 0.31, p < .001)も有意。これは思春期発達のテンポが個人によって異なることを示している。

ベースラインにおける得点は、男子(M = 7.03, variance = 2.03)と比べて女子(M = 8.24, variance = 4.11)のほうが有意に高く、ばらつきがある。

女子の方が男子より思春期がはじまるのが早い(女子における高い思春期ステータスの切片が示すように)。だから、思春期ステータスとセルフコントロールの関係を検討する際には、この男女差を統制することが重要である。統制後、ベースラインにおける思春期ステータスの高さは、ベースラインにおける低いセルフコントロールと関連を示した(β = -.23, p = .04)。思春期のテンポ(つまり傾き)は、セルフコントロールの傾きを有意に予測しなかった(β= -.18, p = .18)。

論文を読んだ感想

11歳くらいから思春期的発達(いわゆる第2次性徴)がはじまる。中学校時代を思い返してみても、また、このくらいの年齢の子どもたちを観察してみても、やはり思春期的な発達の個人差は大きいことに気づく。中学1年生でも、とても背が小さく髭も生えていない男子もいれば、とても発達している男子もいる。中学1年生時点で、クラスの中でも背が小さかった男子が、その後どんどん背が伸びて、卒業するころには別人のように大きくなっていたりする。発達のスピードもさまざまである。

このような思春期的発達差は、おそらく新しい学校に移行した際にも、何らかの形で適応上の差異を生じさせるかもしれない。体育の授業では体格が大きいほうが活躍しやすいかもしれないし、スポーツ系の部活でもきっと有利だろう。こうした発達差が、学校移行研究で十分に考慮されているのかといえば、驚くべきことにそうではない。ほとんどの研究では思春期ステータスは考慮されていないのである。この記事でレビューした論文はそれを検討した数少ない研究である。

私の研究でも今後、思春期のステータスを考慮した研究を行う予定である。この論文をレビューした印象としては、思春期のステータスを生徒に聞くのは、なかなか勇気と配慮が必要かもしれないということである。この時期の子どもたちは、体の発達について非常にセンシティブなので、周りの目を気にして正直に答えてくれないかもしれない。プライバシーに十分配慮した調査が必要だと思われるが、どのようにすればいいのだろうか…。今後、検討してみたい。