発達心理学論文備忘録*論文千本ノック

最近読んだ論文(主に発達心理学、英語)の備忘録を記しています。論文千本ノックチャレンジと題して、論文千本読もう!とこのブログをはじめましたがどうなることやら…。内容には間違いがあるかもしれませんので、論文の内容に関心のある方は原文を読まれることをおすすめします。丁寧に読んだ論文からざっと読んだ論文までいろいろなので、文章のクオリティは保証しません。

Ge et al. (2001). Pubertal transition, stressful life events, and the emergence of gender differences in adolescent depressive symptoms.

Ge, X., Conger, R. D., & Elder Jr, G. H. (2001). Pubertal transition, stressful life events, and the emergence of gender differences in adolescent depressive symptoms. Developmental Psychlogy.  37, 404-417. doi: 10.1037/0012-1649.37.3.404

www.ncbi.nlm.nih.gov

本研究の要約

抑うつの高さは、成人女性の方が成人男性に比べて2~3倍高いことが示されてる(Culbertson, 1997)。発達的な観点から、こうした性差は成人期の前の段階からのプロセスを含む長い時間をかけて生じるものだと予想される。こうした予想と一貫するように、多くの研究では(診断的あるいは臨床域下の両者の)、高いレベルの抑うつが12~16歳の間において男子よりも女子の方ではっきり生じることを示してきた(e.g., Allgood-Merten et al., 1990)。

Nolen-Hoeksema & Girgus (1994)は、個人の脆弱性、思春期への移行課題、ライフストレスとの関連についての性差の生起を検討するためのモデルを提案した。このモデルでは、抑うつの性差は、個人がもつ既存の脆弱性要因と青年期において直面する新規の課題の交互作用によって生じることを提案している。とくに、Nolen-Hoeksema & Girgus (1994)は、青年期の前においても女子のほうが男子より抑うつに対して脆弱性が高いことを示唆している。

本研究では、抑うつ症状における性差の出現に関して、思春期移行と社会移行の両者の役割を検討した。本研究では次の知見を明らかにした。(a)抑うつ症状における性差は8学年の間に生じ、12学年に至るまで大きい。(b)7学年における思春期のステータスは経時的に青年の抑うつ症状と関連する。(c)早熟な女子は、高い抑うつを示す。(d)7学年に測定した抑うつ症状は、セカンダリースクール1年目にわたって継続的な抑うつ症状を予期する。(e)最近のストレスフルイベントは、抑うつの増加と関連する。(f)早い段階で高いレベルの抑うつを示し、最近のストレスフルイベントが多い早熟な女子は、抑うつが継続する傾向がみられた。これらの知見は、抑うつへの脆弱性の高まりに関して、思春期移行と心理社会的要因の交互作用の重要性を実証する。

方法 

対象者

Iowa Youth and Family Projectの6時点縦断データを分析した。1989年に、451家族(女子236名、男子215名)の子どもが7学年の時に調査への参加を募集した調査である。

尺度

抑うつ、ライフイベント(過去12か月に43項目のライフイベントをどのくらい経験したかを測定)、思春期移行(Pubertal Developmental Scale:過去12か月に、思春期的な状態についてどのくらい経験したかを測定:毛の発達、肌の変化など)、女子における思春期のタイミング(早熟、通常、遅延の3グループに分類した)

分析

マルチレベル分析を使用

論文を読んだ感想

思春期の成熟とライフイベントの交互作用に着目して抑うつの性差を検討した大変興味深い論文である。とくに女子の成熟差による抑うつ発達の違いを明らかにする視点は面白いし、発達心理学的にも重要な視点だと思う。案外、調査系発達心理学の研究では思春期状態の指標を取らずに(統制せずに)結果を示すことが多いように思うけど、生物的変化の著しい思春期では第二次性徴の個人差も大きく、そのことがあらゆる心理的変数の性差を生じさせているように思う。その点で、思春期の状態を指標として調査することの大切さを改めて思い知らされた論文になった。