発達心理学論文備忘録*論文千本ノック

最近読んだ論文(主に発達心理学、英語)の備忘録を記しています。論文千本ノックチャレンジと題して、論文千本読もう!とこのブログをはじめましたがどうなることやら…。内容には間違いがあるかもしれませんので、論文の内容に関心のある方は原文を読まれることをおすすめします。丁寧に読んだ論文からざっと読んだ論文までいろいろなので、文章のクオリティは保証しません。

Wang & Eccles (2012). Social support matters: longitudinal effects of social support on three dimensions of school engagement from middle to high school.

Wang & Eccles (2012). Social support matters: longitudinal effects of social support on three dimensions of school engagement from middle to high school. Child Development. 83, 877-895. doi: 10.1111/j.1467-8624.2012.01745.x.

www.ncbi.nlm.nih.gov

本研究の目的

(1)7学年から11学年にわたり、青年が知覚するスクールエンゲージメント(スクールコンプライアンス≒学校ルールの順守?、課外活動への参加、スクールアイデンティフィケーション≒学校所属感?同一性?、学習の主体的価値観)の成長パターンはどのようなものか?

(2)スクールエンゲージメントのパターンは、青年の性別や人種あるいは民族性によって異なるか?

(3)先生、友人、両親からのソーシャルサポートは、スクールエンゲージメントの低下の割合を減少させるか?性別、人種、民族性は、ソーシャルサポートとスクールエンゲージメントの関係を調整するか?

方法

ワシントンDC近郊にある23の学校から対象者が募集された。本研究では全5時点から3時点のデータを用いた。

Wave1のデータは、青年が7年生のとき(M age = 12.9)に集められた。Wave2のデータは、8学年から9学年に移行した秋(M age = 14.3)に集められた。Wave3のデータは、ほとんどの青年が11学年のとき(M age = 17.2)に集められた。

アフリカ系アメリカ人54%、ヨーロッパ系アメリカ人36%、複数の民族性・その他10%であったが、他の民族はサンプルサイズが小さいため本研究ではアフリカ系アメリカ人とヨーロッパ系アメリカ人を対象にした。

Wave1はn =1479、Wave2はn = 1057、Wave3はn = 1054であり、約54%が女性であった。

尺度 

①スクールエンゲージメント19項目、②スクールコンプライアンス5項目(=生徒が非行をしたり授業をさぼったり、授業を妨害する、などの程度を測定)、③課外活動への参加4項目(=どのくらいの頻度で課外活動に参加したか、などを測定)、④スクールアイデンティフィケーション7項目(=学校所属感や学校に行くことを重要だと感じているか、学校が好きか、などを測定)、⑤主観的な学習への価値3項目、⑥先生ソーシャルサポート4項目、⑦友人ソーシャルサポート4項目、⑧両親ソーシャルサポート6項目、⑨デモグラフィック変数(統制変数として:性別、民族性or人種、SES)

統計解析

マルチレベル成長モデリング(multilevel growth modeling; Raudenbush & Bryk, 2002)、階層線形モデル(HLM)など。Level1(within-person)ではスクールエンゲージメントの個人変化をモデリング、Level2(between person)ではこれらの個人変化がデモグラ変数によって異なるか否かをモデリングした。

結果

スクールコンプライアンスの平均的な成長軌跡

7~11学年にかけて経時的に低下した。固定効果パラメタの一次線形切片は、-0.123(p < .001)であった。ランダム効果パラメタの一次線形切片は、0.015(p < .001)であった。

課外活動への参加の平均的な成長軌跡

経時的に低下した。固定効果パラメタの一次線形切片は、-0.040(p < .001)であった。ランダム効果パラメタの一次線形切片は、0.048(p < .001)であった。

スクールアイデンティフィケーションの平均的な成長軌跡

経時的に低下した。固定効果パラメタの一次線形切片は、-0.102(p < .001)であった。ランダム効果パラメタの一次線形切片は、0.004(p < .05)であった。

主観的な学習への価値の平均的な成長軌跡

経時的に低下した。固定効果パラメタの一次線形切片は、-0.049(p < .05)であった。ランダム効果パラメタの一次線形切片は、0.076(p < .001)であった。

スクールコンプライアンスへのソーシャルサポートの効果

先生と両親のソーシャルサポートの増加は、7~11学年にかけてのスクールコンプライアンスの高さと関連した。先生と両親のソーシャルサポートの1SDの高さは、スクールコンプライアンスの低下をそれぞれ0.37SDと0.41SD緩衝した。仮説とは対照的に、友人サポートの1SDの高さは、0.28SDのコンプライアンスの高さを促進させた。

課外活動への参加に対するソーシャルサポートの効果

7~11学年にかけて友人と家族のサポートの増加を経験した生徒は、より課外活動に参加していた。友人と家族のサポートの1SDの高さは、課外活動参加の低下をそれぞれ0.50SDと0.72SD緩衝した。

スクールアイデンティフィケーションへのソーシャルサポートの効果

7~11学年にかけて先生、友人、家族のサポートの増加が増加した生徒は、よりスクールアイデンティフィケーションが高い傾向があった。先生、友人、家族のサポートの1SDの高さは、スクールアイデンティフィケーションの低下をそれぞれ0.58SD、 0.54SD、0.40SD緩衝した。

学習への価値に対するソーシャルサポートの効果

7~11学年にかけて先生、友人、家族のサポートの増加が増加した生徒は、学習への価値の低下が小さかった。先生、友人、家族のサポートの1SDの高さは、その低下をそれぞれ0.42SD、 0.24SD、0.38SD緩衝した。

考察&結論

予想したように、スクールコンプライアンス、課外活動への参加、スクールアイデンティフィケーション、主観的な学習への価値の平均的な成長軌跡は、7学年から11学年にかけて低下した。これらの低下は、青年の発達段階とセカンダリースクールの環境での機会との間のミスマッチによって生じたのかもしれない。たとえば、小学校と比較すると、ミドルスクールや高校はより専門分野化され、より大規模で、より成果主義になる。学力の比較、学校の大人たちと生徒間のポジティブな関係性の発達の機会の少なさ、親しみのない社会関係の中で課外活動に参加する、などが生じる(Eccles et al., 1993)。もし、平均して、学業目的についてのコンピテンスを感じる機会が生徒にほとんどもたらされないとき、主観的な学習への価値観は低下する傾向がある。同様に、もし、平均して、先生との強くポジティブな関係性をもつ機会がほとんどないとしたら、スクールアイデンティフィケーション(≒学校への所属感)やスクールコンプライアンス(≒学校のルールを守る気持ち)は低下するだろう。

いくつかの限界点はあるが、本研究はスクールコンプライアンス、課外活動への参加、スクールアイデンティフィケーション、主観的な学習の価値の発達コースが先生・友人・両親のサポートによって予測されることを示唆し、我々のスクールエンゲージメントに対する理解を進めることができた。本研究はスクールエンゲージメントの発達を生態学的な視点(Brofenbrenner, 2005)で研究することの重要性を強調する。スクールエンゲージメントは対人関係とソーシャルサポートの形で近位プロセスの影響を受けていると思われる。

論文を読んだ印象

これも大規模調査だ…うらやましい。この論文は2012年に発表され、2017年11月現在300以上の引用数がある。サンプリングも綿密に行われており、分析も適切。インパクトの高い論文であることに納得。一流紙に掲載される調査系発達心理学の論文はだいたい大規模縦断データからリサーチクエスチョンを検討したものが多い。横断研究はあまり見かけない。Ecclesといえば発達心理学分野の超有名研究者。