発達心理学論文備忘録*論文千本ノック

最近読んだ論文(主に発達心理学、英語)の備忘録を記しています。論文千本ノックチャレンジと題して、論文千本読もう!とこのブログをはじめましたがどうなることやら…。内容には間違いがあるかもしれませんので、論文の内容に関心のある方は原文を読まれることをおすすめします。丁寧に読んだ論文からざっと読んだ論文までいろいろなので、文章のクオリティは保証しません。

Benner et al. (2017 in press). Understanding Students’ Transition to High School: Demographic Variation and the Role of Supportive Relationships

Benner et al. (2017 in press). Understanding Students’ Transition to High School: Demographic Variation and the Role of Supportive Relationships. Journal of Youth and Adolescence.

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

本研究の目的

本研究は、短期縦断データを用いて、(1)高校移行を通じた青年のウェルビーイングの変化と(2)その変化の程度が個人のデモグラフィック特性とサポートプロセスに基づいて異なるかどうかを検討した。

本研究は、具体的には3つの主要な研究課題に取り組んだ。

第1は、どのようにして青年の社会感情的適応(i.e.,抑うつ症状、孤独感)と学業的結果(i.e.,スクールエンゲージメント、成績、出席)は高校移行を通じて変化するか?先行研究と一貫して、本研究は学業的成功とスクールエンゲージメントは高校移行を通じて低下し、抑うつと孤独感は増加すると仮説した。

第2は、社会感情的および学業成果における変化は、生徒の社会的デモグラ特性によってどの程度の影響が受けるか?多くの高校移行研究が人種/民族的違いに焦点を当ててきたけど、どうように高校移行に影響を与えるであろう性別、出生地、SESについてはよく理解されていない。

第3は、重要な他者(両親、友達、学校)とのサポーティブな関係が、高校移行を通じてウェルビーイングや学業的成果にとって保護因子となる程度を検討することである。ライフコース理論はつながりのある人生が個人の成功的な移行を導くことを仮定しており、本研究は高いサポートを受けている生徒やサポートが移行にわたって安定or増加していることが移行に伴う困難さを低減させることを期待した。

方法

対象者

短期縦断調査であるSchools, Peers, and Adolescent Development Project (Project SPAD)に含まれるデータが分析された。このプロジェクトは民族的なマイノリティの生徒が通う2つの学校(i.e.,主にラテン系アメリカ人とアフリカ系アメリカ人の生徒が在籍する学校)で実施され、252名の生徒が参加した。50%が女子生徒で、Wave1での平均年齢は14.38歳(SD=0.46歳)、Wave2では15.58歳(SD=0.51歳)であった。68%の生徒がアメリカで生まれ、79%が移民の子どもであった。

手続き

8学年(移行前)のWave1から約1年後にWave2(移行後)が実施された。生徒は2つの中学校から7つの高校へ入学した。Wave2では大多数がオンライン調査で回答したが、それが利用できない参加者には質問紙を郵送した。

尺度 

関係的サポート(i.e.,両親および友人サポート)、社会感情的ウェルビーイング(i.e.,抑うつ、孤独感)、学業(i.e.,エンゲージメント、成績、出席)がWave1とWave2で測定された。*尺度名については原典を参照のこと。

共変量として、生徒の性別(0=男性、1=女性)と出生地(0=外国、1=アメリカ)、両親の民族性(0=非ラテン系アメリカ、1=ラテン系アメリカ)、家族構成(1=2人の生物学的両親の家族構成、0=その他の家族構成)、両親の教育レベル(0=両親とも高卒以下、1=両親のうち少なくとも一方は高卒以上)、調査項目に英語で答えたか(0)スペイン語で答えたか(1)、ありうるフィーダーパターン(*おそらく、どの中学からどの高校に進学したかのパターンのことだと思われる)を用いた。

統計解析

第1の目的を検討するために2×2×2×2(time×gender×nativity×parent education level) の反復測定ANCOVAsを実施。最後の目的を検討するために、SEMを実施。この際、8学年でのソーシャルサポート、サポートの変化量、各共変量を主効果としたモデルを分析。サポートの変化量は、Wave1と2の差(引き算)を算出して用いた。

サポートの差得点をもとに、変化の方向性に関する2値変数を作成した。移行前後で低下した生徒(差得点が0未満)は1とコード。36%の生徒が低下した(低下範囲は、−0.17 to −3.17)。39%の生徒は友人のサポートが低下(低下範囲は、−0.20 to −2.00)、48%の生徒は学校所属感が低下(低下範囲は−0.20 to −2.80)。移行前後でサポートが安定あるいは増加した生徒は0とコード(差得点が0以上)。 合計で64%の生徒が移行前後でサポートの安定あるいは増加を経験した(増加範囲は、0.00–3.17)。61%の生徒は友人サポートが増加(増加範囲は、0.00–3.60)、52%の生徒は学校所属感が増加(増加範囲は、0.00–3.20)。

結果

高校移行前後における変化

移行前後で、学業成績は低下、孤独感は増加が示された。スクールエンゲージメント、抑うつ、出席は変化がなかった。

生徒のデモグラ特性による移行問題のバリエーション

Time*GenderのANOVAより、女子は8学年(移行前)では男子より抑うつが高かったが、移行後低下したことが確認された。対して男子は移行前は女子より抑うつが低いが、移行後増加した。

出生地と孤独感でも交互作用が確認された。海外出生とアメリカ出生の生徒は移行前は同じレベルの孤独感を報告したが、海外出生の生徒は移行後に孤独感が低下し、アメリカ出生の生徒は孤独感が増加した。

スクールエンゲージメントについては、海外出生の生徒は移行後に低下したが、アメリカ出生の生徒は増加した。

ソーシャルサポートによる移行問題のバリエーション

移行前後で友人サポートと学校所属感が低下した生徒は、抑うつと孤独感が8~9学年にかけて増加した。移行前後で学校所属感が低下した生徒は、スクールエンゲージメントの低下と関連していた。両親サポートの変化は社会感情的ウェルビーイングおよび学業成果の変化とは関連がみられなかった。

感度分析

結果をさらに頑健にするため感度分析を実施。具体的には、変化得点の0.5SDを基準に生徒を分割し3群化(増加群、安定群、低下群)して再度分析をした。結果、両親サポートが増加した生徒は、社会感情的ウェルビーイングと学業成果の問題が、両親サポートが安定していた生徒より小さかった。また両親サポートが安定していた生徒は、サポートが低下していた生徒よりも抑うつと孤独感の問題が小さかった。

考察&結論

高校移行のために、多くの青年が学業的また社会感情的に奮闘している。また一部の生徒が高校移行によって潜在的により脆弱になるかどうかについては、これまでの移行研究からよく明らかにされていない。本研究の知見は、移行の悪影響をもっとも受けやすい生徒を特定するための第一歩である。多様な重要他者によるサポートの緩衝効果もまた検討され、とくに友人サポートと学校所属感の重要性が明らかにされた。本研究は、高校移行期の多様な青年のウェルビーイング関連の文脈についてのサポートに対するさらなる調査を勇気づけるだろう。

論文を読んだ感想

高校移行の新鋭研究者といえばこの論文の著者Bennerだといえる。全体として堅実な論文という印象。IFが高いJYAに審査4か月で採択されるのも納得。加えて、日本ではなかなか調査することができない出生地や教育水準、民族性などの変数を分析に加えていることも羨ましい。分析の内容が、自分たちが投稿中のものに似ていて少し気持ちが焦るなど…。

誤差変動を含むので、観測変数同士の引き算で差得点を算出することには問題がありそう。潜在差得点モデルを用いればより適切な変化を説明できたのではないだろうか。とはいえ、感度分析で明らかな増加や低下を示した生徒の分析も行っているので、誤差変動の影響は結果の解釈にそこまで影響しないかも。